金銭の支払を命ずる判決が出たのに、相手が支払をしない場合があります。相手にお金がなくて支払えない場合は仕方がありませんが、そうでなければ預金などの差押をすることになります。
預金の差押は、金融機関と支店を特定して、差押命令を送達してもらうことにより行います。
しかしながら、差押をする側は、相手がどこの銀行に預金口座をもっているかなど知りようがありません。知っていたとしても、任意に支払をしない相手方ですから、とっくの昔に残高を0にしてしまってるでしょう。
そうなると、相手の住所地の近辺の支店を調べて、いくつかの支店に差押をかけるということになります。
ただ、複数の支店に差押をかける場合は、各支店に対する差押の合計が請求できる金額となるように、差し押さえ額を分割しなくてはなりません。
例えば、100万円支払えという判決をもらい、
A銀行の浦和支店、北浦和支店、南浦和支店に差押をかけるとしたら、
各支店のそれぞれに100万円の差押をかけられるのではなく、
浦和支店は50万円、
北浦和と南浦和の支店はそれぞれ25万円ずつ
というように、差押の合計額が100万円になるように、差押額を分割します。
仮に浦和支店に100万円の預金があっても、差し押さえるのは50万円ですから、50万円しか取立てが出来ません。浦和支店に口座があれば、北浦和や南浦和には口座がないのが普通でしょうから、みすみす50万円とりはぐれてしまうわけです。
そこで、取りはぐれのない方法で預金の差押をしようと試みた先生がいます。
複数の店舗に預金口座があるときは、預金残高の最も多い預金口座を差し押さえるという申立をされたのです。
この方法なら、とりはぐれがないですね。
しかしながら、最高裁判所はこのような預金差押の申立を認めませんでした。
実は、上記の方法の前に別の方法で差押を試みた先生がおられまして、最も預金残高の多い口座という表示ではなく、全支店の預金口座を差押の対象にし、複数の預金口座があるときは支店番号の若い順に差し押さえるという申立をしたのです。
これに対し、最高裁は、差押命令申立において、どの預金を差し押さえるかを明らかにする表示は、差押の送達を受けた銀行が、速やか、かつ確実に差し押さえられた預金を判別できる程度に明確になっていなくてはいけないと判示して、上記のような差押の申立は不適法だとしたのです(最高裁判所 第三小法廷 平成23年9月20日決定)。
銀行からしてみれば、本来の預金者がお金を下ろす場合以上に、煩雑な手続を強いられるいわれはありません。しかしながら、銀行名、支店名だけでなく、口座番号まで指定しないと差押は出来ないとすれば、預金の差押は殆ど不可能です。そこで、間をとって、銀行名と支店名さえ特定すれば預金の差押ができる、としたものだという理解です。
したがって、全支店の残高を確認比較しないとどの預金が差し押さえられたのかわからないような方法は、認めないとしたわけです。
そこで、預金残高の一番多い支店の預金口座を差し押さえるという方法なら許されるかですが、やはり各支店の残高を確認比較しないと、どの預金が差し押さえられたのかわかりませんので、最高裁は不適法としました。
もっとも、最近の銀行はオンラインシステムで、各支店の預金残高はすぐにわかります。また郵便貯金の場合は、口座のある郵便局を指定する必要はなく、全国に何箇所かある貯金事務センター宛に、相手の預金を差し押さえるという申立をすればすむことになっています。
これを銀行にあてはめれば、本店宛に相手の預金を差し押さえるという申立をしているようなものです。
郵便貯金は良くて、銀行はだめと言うのもおかしな話ですから、ゆくゆくはこのような申立も認められるようになるかもしれません。
ただ、現在は、支店名まで特定することを求められます。それとなく銀行の話しをして、預金のありそうな支店にあたりをつけておくことは非常に重要です。
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